「テン」はキツネやタヌキのように人を化かす?伝承にも多く残る動物!

テンは漢字では「貂」と書く、日本では古くから親しまれてきた生き物です。

毛皮に利用されたり昔話など伝承の中にも登場し、時には妖怪としても語られてきました。地域によっては絶滅危惧種になっていますが、現在でも全国に多く生息している、日本人にとって身近な生き物「テン」をご紹介します。

テンの生息域と生態

テンの生息域

日本にはテンは2種類生息しています。本州・四国・九州に生息するホンドテン、対馬にのみ生息するツシマテンです。一般的にテンといった場合はホンドテンを指します。広葉樹の森林にすむ他、人間を忌避していないため樹木が生い茂る人家周辺にも生息しています。

テンの生態

テンはオスの成獣で体長が40~55cm、尾の長さは15~20cmあり、ニホンイタチよりも大型の生き物です。毛は褐色から黄色まで個体により色が違います。毛色が褐色のものはスステン、黄色のものはキテンと呼ばれ区別されていました。

キテンは東北、スステンは東北以南に多い傾向にありますが、九州や四国でもキテンは確認されています。

テンの食事

冬眠をすることなく一年を通じて昼夜問わず活動しており、繁殖期の夏7~8月以外は基本単独で行動をしています。肉食性の雑食で、野ネズミやリス、鳥や昆虫を捕食しますが、果実も食します。

テンの巣

巣は岩穴や木の幹にできた空洞の樹洞に構えることが多いですが、人家周辺でも行動するため屋根裏や納屋を巣とすることもあります。

昔から人々に馴染まれてきたテン

伝承として語られるテンは妖怪?!

テンは妖怪であると古くから信じられていました。妖怪と化したテンは特に変身能力に長けており、三重県の伊賀地方では「狐七化け、狸八化け、貂の九化け、やれ恐ろしや」という言葉が伝わってきます。七つのものに化けられるキツネ、8つの姿になれるタヌキよりも変身能力が高く、テンは九つのものに化けられる恐ろしいものとされていました。

石川県や秋田県では目の前をテンが横切ると不幸になる「テンの道切り」という予言めいた能力を持つと伝わっています。他にも火を操る能力があるとされており、広島県ではテンを殺めると火難にあうと伝わっています。テンが重なり合って柱のようになった状態から倒れた時、柱の倒れた方角で火事を起こすともいわれています。

テンは二人で獲りに行くな

イタチ同様毛並みが美しく、イタチよりも大型なことから、防寒性に優れた質のいいテンの毛皮は平安時代から皇室や貴族が使う高級品として用いられてきました。

その事から猟師の中では「テンは二人で獲りに行くな」ということわざが伝わっています。これはテンの毛皮は非常に高価で取引されるため、一緒に捕まえに行った猟師仲間が裏切って自分を殺そうとしてきてもおかしくないぞ!というブラックジョーク的な意味合いのあることわざです。

北海道で野生化したテン

1930年代に日本では、国策として毛皮の生産が奨励されていました。北海道では毛皮用にキテンを養殖する産業が起きましたが、太平洋戦争の末期の1944年に国中が物資不足となったことでテンに与える餌も枯渇しました。その為、業者は養殖業をやってられないとテンを野に放ってしまいました。野に放たれたキテンたちは野生で生き延び、現在も北海道に生息しています。

この野生化したキテンと、北海道にもともと生息しているエゾクロテンが交雑することによるエゾクロテンの純粋種の減少が危惧されています。

まとめ

テンは野生動物ですが、人間を恐れないため人家の近くでも活動し、屋根裏や納屋を巣としてしまう事から古くはなじみの深い生き物でした。また、イタチよりも大きく防寒性の高い毛をしていることから質の高い高級品の毛皮として取り扱われ、平安時代には貴族から近代では軍人までと様々な時代、多くの人たちに愛用されてきました。

妖怪として語られているのも、東北地方の秋田県から中国地方の広島まで幅広い地域に及んでいますのでそれだけテンが全国の人間の身近な場所で生息しているという証ですね。

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