
世間知らずを指す語句の「遼東の豕」。
これは見聞の狭さを咎める言葉としても使用されます。
ここでは、この「遼東の豕」という言葉について、その意味や成り立ち、類義語などを見ていきましょう。
目次
「遼東の豕」とは

まずは「遼東の豕」という言葉について見ていきましょう。
「遼東の豕」の意味
「遼東の豕」とは、見聞が狭いためによくある物事を特別だと思い得意げに話したり、自慢してしまう人物を批評する際に用いる言葉です。
つまり、世間知らずだということを例えた表現となります。
そんな事も知らなかったのか、と相手から思われているとも思わず、恥ずかしげもなくさも珍しかろうと話している様子となっています。
「遼東」とはどこ?
「遼東の豕」の「遼東」とは、中国にかつてあった地名のことを指しています。
大連や遼東半島を含む、現在の遼寧省周辺の地域となります。
明治時代にあった日清日露戦争の折には非常に重要視された土地であり、三国志の後半以降に登場する「公孫淵」が魏から独立し燕王と称した地でもあります。
「豕」はブタのこと
「遼東の豕」の「豕」は、動物のブタのことです。
日本だと「豚」と漢字表記しますから、若干違う文字ということになりますね。
ちなみに、日本だと「豕」はイノシシの意味合いの方が強いようです。
「遼東の豕」の由来

どのようにして「遼東の豕」という言葉が生まれたのか、その成り立ちとされる故事について見ていきましょう。
古代中国に伝わる一通の手紙の逸話が由来
「遼東の豕」は、古代中国の歴史書「後漢書」―朱浮伝にある「ある手紙」にまつわる話から来ています。
古代中国に後漢王朝が出来たばかりの頃、
現在の北京周辺にあたる幽州を統治していた将軍の朱浮は、元部下の彭寵に反乱を起こさました。
そこで、朱浮は反乱を起こした彭寵に次のような手紙を送って激しく非難したのです。
「かつて、遼東である豚が頭の白い子豚を生んだ。これを見た飼い主は、非常に珍しいことだと思い、その子豚を献上すべく洛陽の都までやってきた。ところが、その地域ではどの豚も頭が白く珍しいものではなかった。自分が意気揚々と献上しようとした豚は珍しい存在でもなんでもなかったと気が付いた男は、そこで恥ずかしくなって引き返したそうだ。」
この手紙は、朱浮が部下であった彭寵がこれまで立てた手柄を取るに足らない存在だと批判した文章となっています。
そこから「遼東の豕」という言葉が生まれました。
手紙の送り主は結果負けてしまう
彭寵が起こした反乱は、朱浮によるこの手紙によって急展開を迎えます。
手紙を読んだ彭寵は激怒し、反省して反乱をやめるどころか朱浮を攻め立て、朱浮が命からがら逃げ出す事態に。
彭寵は、燕王を名乗り一大勢力を築くに至ります。
その後、彭寵が暗殺されることでこの反乱は結末を迎えるのですが、朱浮は責任を追求され左遷されることになりました。
斬首相当の罪がある灯されたようですが、これまでの功績を鑑みて皇帝からかなりの温情が施された結果なのだとか。
彭寵が反乱を起こしたのは、朱浮が彭寵の功績にあった待遇にしなかったのが原因。
彭寵の反乱が大規模になったのは、朱浮の手紙のせい。
ということを見ると、朱浮という人物は優秀だったかもしれませんが、かなり性格的に難ありだったのかもしれません。
「遼東の豕」の類義語

ここからは、「遼東の豕」の類義語を見ていきましょう。
類義語としては、「井の中の蛙大海を知らず」や「針の穴から天を覗く」などがあげられます。
井の中の蛙大海を知らず
「井の中の蛙大海を知らず」とは、狭い了見に囚われているため、もっと広い世界があることを知らないでいることをあらわしています。
見識が狭いため、判断や思考もその狭い範囲でしかできないこと、物事の大局的な判断ができないことに対しても用います。
この言葉は、井戸の中で暮らすカエルはそれが世界の全てだと思っているので、外に広がる大海原を知らないという様子を描写して生まれました。
針の穴から天を覗く
「針の穴から天を覗く」とは、少しの知識しかないにもかかわらず大きな問題について推測したり、解決しようと動く様を意味します。
紙に針で穴を開けて空を覗いてみたところで、見えるのは僅かな範囲です。
到底全体が見えるはずはありません。
この針で開けられた小さな穴が自分の知識や見識をあらわし、広大な空が問題や大きな事柄をあらわしています。
まとめ
「遼東の豕」は、世間知らずをあらわす語句のひとつです。
その由来は、後漢の時代に朱浮という将軍が、反乱を起こした元部下の彭寵に送った手紙から来ているとされています。