
「地震が来る」「世界が滅びる」――終末を告げるメッセージは、いつの時代も人の不安と好奇心を同時に刺激してきました。
1990年代にはオカルト雑誌やテレビ特番が、2000年代以降はインターネットと SNS が、“真偽不明の予言” を次々と拡散してきたのはご存じのとおりです。
2025年の今、あらためて「あの大騒ぎは結局どうなったのか」を検証してみると、浮かび上がるのは――“当たったように見える仕組み” と “私たち自身の思い込み” でした。
本稿では、日本でも大きく取り沙汰された五つの予言を取り上げ、一次資料や公式発表を手がかりに〈事実〉と〈誤解〉を整理していきます。
目次
①【2011年予言】東日本大震災と“イルミナティカード”
1995 年に米国で発売されたカードゲーム『Illuminati: New World Order』には、ビルが炎上したり塔が崩壊したりする不穏なイラストが多数描かれています。なかでも “Combined Disasters” というカードの倒壊シーンが、震災後に「東京タワーと連想された塔が崩れるように見える」と日本のネットで急浮上しました。
しかし発売は震災の 16 年前で、日付も地名も示されていません。イラストを担当したデザイナー自身が「ロンドンのビッグ・ベンやピサの斜塔などをコラージュした」と語っており、米誌『Skeptical Inquirer』も「後づけ解釈の典型例」と断じています。不気味な一致が話題になったものの、予言と断定する根拠は見当たりません。
② ノストラダムス「1999年7の月、恐怖の大王」
「1999年7の月、空から恐怖の大王が降って来る」。このたった一行の古詩が、昭和末期から平成にかけて日本を大きな終末論ブームに巻き込みました。
ところが 1999 年 7 月を迎えても世界は破滅せず、歴史に残るような大惨事も発生しませんでした。原文は 16 世紀の古フランス語で倒置法や占星術の符号が混ざり、翻訳次第で意味が変わる曖昧な詩です。
「大王」を核兵器に見立てた解釈などもありましたが、学識者は「未来を一義的に示す文証ではない」と結論づけています。
むしろ現実に社会をハラハラさせたのは、翌年に持ち越した 2000 年問題(Y2K)だったことは皮肉と言うべきでしょう。
③【2012年マヤ暦】人類滅亡説
しかし研究者は当初から「暦が 13.0.0.0.0 で一区切りし、翌日には 13.0.0.0.1 と進んで中央アメリカのマヤ文明が用いた長期暦は、約 5,125 年をひと区切りとする 13 バクトゥン制で刻まれています。周期末とされた 2012 年 12 月 21 日が近づくと「地球が滅びる」との噂が広がりましたが、研究者は当初から「暦が 13.0.0.0.0 でリセットされ、翌日 13.0.0.0.1 から新たなターンが始まるだけ」と説明していました。
第14バクトゥンが始まるだけです」と説明していました。NASA も公式FAQを公開し、「惑星直列や地軸の急激な移動は起きません」と繰り返し呼びかけています。
迎えた当日、予言されたような破滅的出来事は起こらず、長期暦は予定どおり新しいサイクルへ移行しました。終末論は結局のところ “カレンダーの切り替え” を誤解した騒動だった、というのが現在の定説です。
④ビル・ゲイツの TED 講演と『シンプソンズ』はコロナ禍を当てた?
2015 年 3 月、ビル・ゲイツ氏は TED で「次の大惨事は戦争ではなく感染症だ」と警鐘を鳴らしました。
さらに米国アニメ『ザ・シンプソンズ』が「中国発のウイルス流出」を描いたという画像がネットで拡散し、「コロナを予言していた」と騒がれます。
けれども TED の内容は西アフリカで起きたエボラ出血熱のデータを踏まえた公衆衛生上のリスク分析であり、占星術的“予言”ではありません。
拡散されたシンプソンズ画像の元ネタは1993年放送の「Osaka Flu」で、日本発インフルエンザをギャグ化した回です。中国由来とする画像はファン改変が混在しています。
つまり新型コロナ禍は「未来を当てた」のではなく、以前から専門家が共有していたパンデミックリスクが現実化した――というのが正しい理解です。
⑤ 2024 年北米皆既日食と「アメリカ分断」説
2017 年と 2024 年の皆既日食帯が米国本土で X 字に交差することから、一部の SNS で「モーセの十字架のようだ」「終末のサインだ」といった投稿がブームになりました。しかし迎えた 2024 年 4 月 8 日、皆既日食は予定どおり天文学イベントとして大成功。
観測地域には観光客が殺到し、交通渋滞とホテル不足こそ起きましたが、大規模な災害や社会崩壊が起きる気配は皆無でした。
日食そのものはサロス周期という 18 年 11 日ごとの天体ショーにすぎず、地球環境を直接破壊する物理メカニズムも存在しません。終末論が空振りに終わった好例と言えるでしょう。
まとめ――“当たったように見える” その仕組み
振り返ればこれらの予言は、曖昧な表現をあとから現実に結び付けたり、科学的リスク提言を占いのように扱ったりすることで「的中した」と錯覚させられた面が大きいとわかります。一方で、ビル・ゲイツ氏のようにエビデンスを示して将来のリスクを語るケースは、恐怖ではなく備えにつなげるべき“予測”です。
大切なのはメッセージを鵜呑みにして怖がることではなく、「なぜこの話が広まったのか」「自分の行動にどう転換できるか」を考える視点。それこそが、次に現れるセンセーショナルな予言に振り回されないための最良のワクチンになるはずです。