
大きなカマを持ち攻撃的な性格をしたカマキリ。
細長いシャープな体を持っているのが特徴的ですが、実はその体内にはカマキリ自身を死に導く恐るべき寄生虫に感染している可能性があります。
カマキリを襲う恐怖の寄生虫の生態や、なぜカマキリが死に導かれることになるのか、その理由をご紹介します。
目次
ハリガネムシとは

カマキリの体内に宿り、死に導く寄生虫は「ハリガネムシ」といいます。
ハリガネムシの特徴
このハリガネムシは、体長が最大1mまで成長する生き物です。
それに対し、直径が1~3mm程しかないため、非常に細長い体をしています。
体に節もなく線状の体をしていますが、ミミズなどのように伸縮性は無く、その表面は丈夫な膜で覆われています。
膜で覆われたハリガネムシが、乾燥すると針金のように硬くなることからその名前が付いたといわれています。
ハリガネムシは総称
ハリガネムシというのは特定の生き物ではありません。
類線形動物門ハリガネムシ綱ハリガネムシ目に属する生き物の総称です。
ハリガネムシ自体は世界中に存在しており、発見されているだけで320種以上、実際には2,000種以上はいるだろうと考えられている寄生虫です。
カマキリ以外にも寄生する

カマキリの寄生虫ではありますが、他にもバッタやカマドウマ、コオロギ、キリギリスといった昆虫類に寄生することが確認されています。
寄生主を操るハリガネムシ

どのような手段でハリガネムシはカマキリなどの昆虫に寄生するのかを見ていきましょう。
最初はヤゴなど水中昆虫に寄生するハリガネムシ

ハリガネムシは水中で孵化します。
孵化したハリガネムシの幼生は、カゲロウやヤゴなど水中昆虫によって体内に取り込まれます。
取り込まれてしまった幼生ですが、ここで消化されるわけではありません。
体の先端についたノコギリで水中昆虫の体内を進むと、その腹の中で成長していきます。
ある程度まで成長すると自身を殻で覆い休眠状態に入ります。
この状態を「シスト」といいます。
このシストの状態に入るとハリガネムシはマイナス30度という冷凍下になっても死ぬことがありません。
水中昆虫は成長すると羽根を持ち、陸上で生活するようになります。
ヤゴは成長しトンボとなり、カゲロウもまた成長すると羽根を獲得し、水生をやめます。
ハリガネムシは寄生主を操る

成虫となり陸に出たハリガネムシに寄生された昆虫が、カマキリなど陸生の昆虫に捕食されると、ハリガネムシは寄生先を捕食した昆虫に変更します。
そして、カマキリなどの体内で、最大1mにまで成長をするのです。
寄生主の体内で成虫まで成長したハリガネムシは、ある種のタンパク質を寄生したカマキリなど昆虫の脳に注入します。
こうすることで、ハリガネムシは寄生先の昆虫を操作できるうようになるとされています。
ハリガネムシによって脳を操られたカマキリなどの昆虫は泳げないにもかかわらず、川などの水中に入水します。
もちろん泳げないカマキリたちは、入水することで命を落としてしまいます。
ハリガネムシが寄生する理由

水中に戻ってくるハリガネムシ
カマキリなどの寄生主を操ることで、ハリガネムシは水中に戻ってきます。
その理由は子孫を残すことです。
寄生主を入水させた後、ハリガネムシは体外へ脱出して、水中で自由に行動できるようになります。
そして、ハリガネムシは水中で交尾をし、産卵するのです。
川の生態バランスを守るハリガネムシ

カマキリをはじめとする昆虫を操るハリガネムシ。
実は水中の生き物にとってはいないと困る存在でもあります。
イワナやヤマメといった渓流に住む魚にとってハリガネムシによって操られ入水してきた昆虫というのは、非常に貴重な栄養源となります。
ハリガネムシによってカマキリやコウロギ、キリギリスといった昆虫が入水してこない場合、水中をきれいにする役目もある水中昆虫をイワナやヤマメが食べ尽くしてしまうため、生態系が壊れてしまうといいます。
カマキリたちにとっては恐ろしい存在のハリガネムシですが、生態系の枠組みを考えると非常に重要な役割を果たしているようです。
まとめ
小さい頃、カマキリやバッタのお腹を触ったら体内から黒い線状のものがウニョ~ンと出てきて驚いた、という思い出がある人もいると思います。
あれが実はハリガネムシです。
成長すると最大1mという寄生主よりも遥かに大きくなることもあるハリガネムシには、宿主を操り入水させるという恐ろしい力があります。
一見するとおぞましいと思えるこの能力ですが、水中の生態系にとって非常に重要な役割を果たしています。
自然の中では、どんな能力が生態系維持にとって重要な役目を果たしているかわからないものですね。