クリスマスに飾りつけをする、いわゆるクリスマスツリーの木となる「モミの木」。
日本や多くの国ではクリスマスシーズンにだけ飾られますが、中にはクリスマス以外でも魔除けとして用いる国もあるのだとか。
ここでは、このモミの木がどういう木なのかはもちろん、なぜクリスマスツリーとして用いられているのかを見ていきましょう。
目次
モミの木とは
モミの木は、マツ科モミ属に分類される常緑針葉樹です。
夏冬ともに生命力溢れる深緑に包まれており、日本ではクリスマスシーズンになるとクリスマスツリーとして飾られる定番の木となっています。
日本のモミの木
日本に自生するモミの木の仲間としては、モミ・ウラジロモミ・トドマツ・シラビソなどがあります。
これらは、世界中に自生するモミ属で最も温暖地に分布する種類となります。
トドマツは、北海道や千島列島といった寒冷地のみ自生しています。
ウラジロモミは福島県から四国にかけて、モミは秋田県から屋久島までとかなり温暖になる地域でも自生しているとされます。
これら、モミ・ウラジロモミ・トドマツ・シラビソといった木は、いずれも日本固有種とされています。
モミやウラジロモミは、40mほどまで生長するとされます。
特にモミは、日本固有種の中で最も葉が大きく、かつ硬い葉をしているのだとか。
このモミの木という呼称は、以下のような説があります。
1つ目の説は、局所的に育つため風によって揉み合うことから。
2つ目は、新芽の数が多いことを意味する「芽富み(めとみ)」から。
3つ目としては、新芽の萌黄色(もえぎ)が美しいことから。
4つ目の説は、天皇行幸の御座所に多く植えられたため「臣(おみ)の木」と呼ばれていたことから訛化した。
なお、古名ではモムノキ及びオミノキと呼ばれるそうです。
クリスマスに飾られるのは「ヨーロッパモミ」
ヨーロッパでクリスマスツリーとして利用されるのは、ヨーロッパモミの幼木です。
ヨーロッパモミは別名シロモミと呼ばれる木で、日本固有種のモミの木とは異なる種です。
その自生地の範囲は広く、東ヨーロッパのルーマニアからヨーロッパ大陸の西部、フランスとスペインの国境付近を走るピレネー山脈までとなっています。
ドイツでは神聖視されており、庭木として植えられていたり、クリスマス以外にも玄関などに飾りつけされていることもあります。
悪魔よけの効果があると伝わっているのです。
また、木自体ではなく、家の扉の前にモミの枝を飾るという事もあります。
「オウシュウトウヒ」もクリスマスツリーにされる
近年では、クリスマスツリーとしてヨーロッパモミ以外にもオウシュウトウヒという木が使われることもあります。
オウシュウトウヒは、別名ヨーロッパトウヒやドイツトウヒと呼ばれる木です。
マツ科トウヒ属なのでモミの仲間ではありませんが、姿かたちがモミの木にとても似ています。
ヨーロッパモミに比べて成長が早く、苗木も安価で流通していることなどから、このオウシュウトウヒが使われることも近年増えているのだとか。
モミの木とクリスマスの関係
では、そもそもなぜ「クリスマスツリー=モミの木」なのでしょうか?
ここからは、モミの木とクリスマスの関係について見ていきましょう。
モミの木にはキリストとまつわる話はない
クリスマスは、キリストの生誕をお祝いする行事です。
しかし、最初に言ってしまうと、モミの木とキリストには直接的な関係はありません。
特段、モミの木にキリストにまつわる話も存在しません。
では、どこから「クリスマス=モミの木」という文化が広まったのか、それはドイツでの古い風習にあるとされます。
ドイツの風習からクリスマスツリーは生まれた
クリスマスツリーという文化は、ドイツで生まれたとされています。
ドイツでは、キリスト教化が進む以前は古代ゲルマン民族による樹木信仰が盛んでした。
ドイツでキリスト教を布教した宣教師たちは、この樹木信仰と現地にも自生するモミの木を利用したとされます。
モミの木は、横から見ると三角形に見えます。
そしてキリスト教には、父なる神、子なるキリスト、聖霊は本質において同一であり、この3つの位格を有するのが唯一の神であるという、「三位一体」という教理があります。
この2つを結び付けて、モミの木を「父なる神を頂点とした、三位一体をあらわす木」であり、聖なる木としました。
すると樹木信仰と結びついた結果、ドイツ国内でキリスト教が広まったのです。
この樹木信仰はキリスト教が広く浸透した後も影響を残し、中世以降にクリスマスツリーが生まれたとされています。
1400年代に貧しい人たちを救済する施設のアルムスハウスにクリスマスにツリーを飾っていたという記録や、16世紀初めの銅版画に描かれたクリスマスツリーが残っています。
また、フランス北東部に位置するアルザス地方での17世紀の旅行記にも。クリスマスツリーに関する記述があります。
日本におけるクリスマスツリーのはじまり
日本人により、初めてクリスマスツリー飾り付けがされたのは、1886年のこととされます。
現在も食べ物やお酒の小売販売などを営んでいる明治屋が、当時本社を構えていた横浜でクリスマスツリーを飾りました。
これが、日本人によるクリスマスツリーの飾りつけの先駆けとされています。
その後、1920年代には、クリスマスツリーを飾る文化が定着したのだとされています。
クリスマスツリーとクリスマスの関係
ドイツでの樹木信仰を背景に生まれたとされるクリスマスツリー。
その後はアレンジなどが加えられることで、クリスマスとの結びつけが深まっていきました。
クリスマスツリーは何を象徴している?
ドイツで三位一体をあらわすとされたモミの木ですが、クリスマスにおけるクリスマスツリーは「知恵の樹」の象徴とされ、日本語では「聖樹」と呼ばれることもあります。
この「知恵の樹」とは旧約聖書に登場するキリスト教においても重要な木です。
旧約聖書の創世記では、知恵の樹に実る果実を食すと神々と同じ善悪の知識を得るとされている反面、不死身の力を失うとされています。
人類最初の人とされるアダムはこの果実は「決して口にしてはいけない」と神から注意を受けていました。
ところが、妻であるイヴから言われたことでアダムはその知恵の実の果実を食べてしまいました。
すると、羞恥を覚え裸でいることを恥ずかしいと感じるようになりました。
神の言いつけを守らなかったアダムとイヴは、必ず死を迎える存在となり、更にエデンの園を追放されてしまいました。
これが「失楽園」といわれる物語となりました。
クリスマスツリーは、人類が存在を許されなくなったエデンの園にあり、食してはいけないとされた果実のなる「知恵の樹」の象徴とされているのです。
常緑樹のモミの木は、冬のクリスマスでも緑が生い茂ることから、強い生命力を感じさせる木という一面もあります。
クリスマスツリーのてっぺんに星がある理由
クリスマスツリーは、そのてっぺんに星のモニュメントを飾り付けるのが定番となっています。
この星の飾りつけには、「ベツレヘムの星」とう名称があります。
ベツレヘムの星とは、東方の三博士にキリストの誕生を知らせ、ベツレヘムに導いたとされているキリスト教徒にとってとても大切な星のことです。
ちなみに、市販されているクリスマスツリーのデコレーション部品は五芒星であることがほとんどですが、本来の伝承では八芒星とされています。
まとめ
モミの木は、クリスマスツリーとして使われることの多い木です。
日本では、モミやウラジロモミが使われていますが、ヨーロッパではヨーロッパモミという品種が主流となっています。
そんなモミの木は、古くからドイツなどで聖なる木として扱われてきたとされます。
モミの木は常緑樹なので、クリスマスシーズンも葉があり強い生命力を感じさせます。
そして最初の人間とされるアダムたちがいたというエデンの園にある知恵の樹を象徴する木として、クリスマスに飾りつけがされています。