お寿司屋さんには特有のマナーや専門用語がありますが、様々な巷説が混ざり合っていて何が正しいのか分からなくなってしまいます。
お客としてお寿司屋さんに行ったとき「あがり」「おあいそ」「しゃり」などの専門用語を間違えて使っていないでしょうか?また、お寿司屋さんのカウンター席で知らないうちにマナー違反をしていたなんていうことはないでしょうか?思い返すと少し不安になってしまいます。
今回は、お寿司屋さんで恥をかかないために、正しい専門用語の使い方とカウンター席に座ったときのマナーについて解説いたします。
目次
「あがり」=「お茶」
お寿司屋さんでは、お茶のことを「あがり」と呼んでいます。これは江戸時代から続いているお寿司屋さんならではの呼称ですが、なぜこのように名付けられたのでしょう。
元々は隠語で客側が使う言葉ではない
実は、元々はお店側での合言葉として使っていた隠語だったんです。
職人が仲居さんに伝える隠語だった
「あがり」とは、元々は職人が仲居さんに「お客さんの食事が終わったのでシメのお茶をお出ししてください」と伝える合言葉でした。
客側が言うのは適当ではない
お客としてお寿司屋さんに行くと、思わず「あがり下さい」と言いたくなりますが、実はお店側が使う専門用語だったんです。
遊郭等で出すお茶を上がり花と言っていた
「あがり」の由来は、江戸時代の花柳界(芸者・遊女などの社会)にあるといわれています。
花柳界では、お客が来なくて暇な状態を「お茶を引く」と言っていました。これは芸妓さんがお客につかないときには茶臼でお茶を引く仕事をさせられていたためです。「今日は暇だったからお茶を引いたわ」というように芸妓さん同士で会話をしていたのでしょう。このため花柳界でいう「お茶」とは縁起の悪い言葉だったんです。
芸妓さんたちが茶臼で引いたお茶はお客が出入りする際に振る舞われ、お客が入り初めに出すお茶は「お出花」、最後に出すお茶は「上がり花」と呼んでいました。縁起が悪い「お茶」という言葉を使わず、なおかつ華やかさを演出するためこのような呼び方になったのでしょう。
これがいつの間にか「あがり」として寿司屋でも使われるようになったのです。江戸時代は寿司屋が栄えた時代でもあるため、同じ客商売同士で言葉が広まったことも納得できますね。
他にもある寿司屋用語
他にもたくさなる寿司屋の専門用語の中からいくつかご紹介いたします。
おあいそ=会計
お店側がお客に「お愛想がなくて申し訳ありません」と言いながら勘定書を渡していた頃の名残です。今でも「お代金をいただくときはニコニコ愛想よくしなさい」という意味も含めて使われています。このことから、お店側が使う隠語だということが分かりますね。
その為、客側がお店に対して「おあいそ」というのはあまり好ましくありません。「お勘定」や「お会計」と伝えるのがベターです。
むらさき=醤油
江戸時代は寿司屋が流行し、全体的に人々の食生活も豊かになっていったのですが、その頃の醤油はとても高価なもので米の3~4倍ほどの値段が付けられていました。その背景もあり、醤油の色が高貴な色である紫色に似ていることから「むらさき」と呼ぶようになりました。
シャリ=すし飯
サンスクリット語(インド方面の古代語。仏教の礼拝用言語)の米という単語「シャーリ」に由来しているという説と、仏教用語であるお釈迦さまの骨「舎利(しゃり)」に由来しているという説があります。どちらの説も仏教が関連しているというところでは同じですね。
ちなみにすし飯ではない普通のご飯のことをドンシャリと呼びます。
ガリ=生姜
歯ごたえの音がガリガリするから、というシンプルな理由です。その食感とピリッとした味は生魚を食べた後の舌をさっぱりさせ、殺菌作用もあります。
かっぱ巻き=きゅうりの細巻き
河童の大好物はきゅうりだということは有名ですね。しかし、なぜ河童はきゅうりが好きなのかご存知ですか?頭のお皿に水を入れている河童は、体も常に湿っていないといけません。陸に上がるときは体が乾燥するのを防ぐために、水分が多い野菜であるきゅうりを体に巻いていたということなんです。
河童がきゅうりを好きなのは、食べるだけではなく生活するのに欠かせない理由もあったんですね。運命なのか巡り合わせなのか、河童を祀っている水天宮の紋章が、きゅうりの切り口に似ているとも言われているんですよ。
ナミダ=わさび
お寿司にわさびはとっても良く合いますね。しかし、付け過ぎると鼻の奥がツーンとして涙が出てきます。このことからわさびのことをナミダと呼んでいるんです。
ネタ・タネ=寿司の具材
語源は寿司種(すしだね)です。タネを逆さに読んだ隠語が「ネタ」です。ちなみに鮮度の落ちたネタはアニキ、新鮮なネタはオトウトといった隠語もあります。
「あがり」「おあいそ」「ねた」のように、お店側の隠語として使っている言葉もあります。お寿司屋さんにいくと、ついつい使いたくなる専門用語ですが、お客として行った時にはあまり多様しない方がいいのかもしれませんね。
知っておきたい寿司屋マナー
お寿司屋さんならではのマナーにはどんなものがあるのでしょう。
初めての店での「おまかせ」はNG
初めて行くお寿司屋さんで、何を頼めばいいのか分からないときにやってしまいがちなのが「おまかせ」で注文すること。板前さんのおすすめを選び出してくれるのだから「おまかせ」を頼めば間違えないと思いますよね。
しかし、これはNGなんです!板前さんは、お客の好みと旬のネタを考えて「おまかせ」を選び出します。初めて行くお店では、板前さんもお客の好みが分からないので「おまかせ」を頼めば安心というわけではありません。
もし注文の仕方で悩むときには、ある程度決まったネタが並んでいる「おきまり」を頼むのが良いですよ。「特上にぎり」や「上にぎり」などと分けられていて金額設定も想定できますので安心感もあります。
出されたゲタは動かさない
ゲタとは寿司を並べる下駄のような形をした木製の台(寿司台)のことです。ゲタは板前さんが適切な場所に置きますので、そこから動かさないようにしましょう。適切な場所とは、板前さんとお客の手が両方届く場所です。
板前さんが握ったお寿司をゲタに乗せ、そのお寿司をお客が食べることになりますので、うっかり自分の方へ引き寄せ過ぎないように気を付けましょう。
箸でも手でもOK
「日本は箸文化が進んでいるんだから手で食べるのはマナー違反?」「昔はお寿司を手で食べていたんだから箸を使う方がマナー違反?」どちらが本当なのか迷いますが、お寿司を食べるのは手でも箸でもどちらでもいいんですよ。
ただ、お寿司を手で食べていても、ガリを食べるときは箸を使いましょう。
醤油はネタに!
醤油をつけるときはネタに付けるようにしましょう。ご飯に醤油がついてしまうと、茶色い米粒がぽろぽろと落ちてしまい食べにくくなります。軍艦に醤油を付けるときは、ガリに醤油を含ませてネタの上に垂らします。
食べるときはネタが下向きに!
ネタを下向きにして口に入れると、舌にネタが直接当たるためより美味しくいただくことができます。ネタを下向きに醤油を付けてそのまま口に運ぶとスマートに食べられますね。
時価は聞いても大丈夫
値段を聞くのは恥ずかしいと思われるかもしれませんが、時価を聞くのは当然のことです。日によって価格変動するものなので聞いてから注文するのが当たり前であり、値段次第で注文を断ってもいいのです。
まとめ
「あがり」の由来を調べたら、お寿司屋さんで使っている専門用語には日本の時代背景が色濃く残っていたことが分かりました。お寿司を食べながらの小話にも使えそうですね。
他にも、お寿司の歴史について解説した雑学記事がございます。こちらも併せてご覧ください。